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コラム

お寺の漫画図書館~お寺の取り組み~
終活について

お寺の漫画図書館~お寺の取り組み~

仏教はつながりの宗教
寺とつながりのない人々に「ご縁」を広げていきたい

お寺の漫画図書館 増上寺山内 多聞院 土屋正道住職
増上寺をご存知でしょうか。東京港区にある、浄土宗の七大本山のひとつである。5年前の東日本大震災の際には、帰宅難民となり、開放された増上寺で一夜を明かした人の少なくないだろう。法然上人が開いた浄土宗は、”救いは念仏を称えることで得られる”という教えを中心とし、ただひたすらに念仏を称えることで、いつでも、どこでも、誰もが平等に阿弥陀仏に救われ、極楽浄土に往生すると事が出来るという仏教の宗派のひとつ。そうした「他力」の教えでもある浄土宗は、そのわかりやすさも手伝い、公家や武士だけでなく、経典を学び、寺院へ寄進や参詣する余裕のなかった多くの民衆にも希望を与え、日本全土に浸透した。安土桃山時代、浄土宗の教えに深く帰依した徳川家康公は、徳川家の菩提寺として増上寺を選定。増上寺には、二代秀忠公、六代家宣公、七代家継公、九代家重公、十二代家慶公、十四代家茂公の、六人の将軍の墓地が設けられているという。そんな増上寺の山内だった寺、多聞院内に昨秋、「お寺の漫画図書館」がオープンした。同じく山内だった観智院と多聞院の住職を兼務し、「お寺の漫画図書館」を務める土屋正道氏に話を聞いた。

「お寺の漫画図書館」とは?
2016年2月現在の蔵書の数は300冊。全てが仏教に関わるコミックである。主な蔵書は、仏教漫画の代表格とも言える、手塚治虫の『ブッタ』。密教世界をモチーフにした「宗教漫画ブームのはしり」と言われる『孔省王』。ブッタとイエスが下界のバカンスを満喫するという設定で繰り広げられるコメディ、『聖☆おにいさん』など。『聖☆おにいさん』は開館後に訪れた方から要望を受け、新たに加えられた。蔵書は、スタート時は堀内氏のアドバイスを参考に揃えたが、今後は来館する方の意見を取り入れながら、遂次増強していくという。
 「お寺の漫画図書館」は玄関を開けると、まるで実家に帰って来たかのような、懐かしく、温もりのある空間が広がる。

「お寺の漫画図書館」の役割
東京には、お寺とつながってない人が多い。本来、仏教はつながりの宗教だから、多くの人とつながるためにこれまでも様々なことを試みてきた。そういった活動の延長線上にあるのが、「お寺の漫画図書館」だと、正道住職はいう。檀家制度がしっかりと機能していた時代は、檀家がお寺を守ってくれた。江戸時代には、現在の戸籍のようなものは、寺院が管理していた。通行手形も寺院が発行し、旅行に行く際は所持することが義務付けられていた。かつては役所のような役割も寺院が担っていたのだ。
しかし現在は、檀家は減り、戸籍を管理することも、通行手形を発行することもなくなった。別のネットワークを構築して、つながりを広げ、役割を見出さなければ、寺院の存在は薄れていってしまう。

何百年も歴史のある寺院を、今になって潰してしまうのはもったいない。寺院が統廃合を行うことは難しいが、今後は、地域ごとに協力体制を作って助け合っていくか、もしくは、経済的にゆとりのある都市部の寺院が、地方の寺院のサポートしていくような仕組み作りが必要なのではないか。「お寺の漫画図書館」は、今後訪れる人が増えていけば、開館時間を長くするなど、より多くの人が利用しやすいように、対応していく方針だ。現代アートの展覧会やダンス、太極拳など、様々なイベントを構想中だという。寺院の敷居を低くし、門戸を広げて、念仏道場の基本を守りながら、ふらっと立ち寄れるコンビニのような寺院作りを目指す、正道住職の今後の取り組みが楽しみである。
2016月刊仏事 5月号掲載より抜粋

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